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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)1170号 判決 1987年3月25日

控訴人

三菱電機株式会社

右代表者代表取締役

片山仁八郎

右訴訟代理人弁護士

滝川誠男

松崎正躬

被控訴人

伊藤勇

右訴訟代理人弁護士

堤浩一郎

奥石英雄

川又昭

森卓爾

星山輝男

林良二

伊藤幹郎

山内忠吉

畑山穣

稲生義隆

根岸義道

岩橋宣隆

小口千恵子

山田泰

野村正勝

三竹厚行

猪俣貞夫

右堤浩一郎訴訟復代理人弁護士

影山秀人

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

2  被控訴人の申請を棄却する。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文第一項同旨

第二  当事者の主張及び証拠<省略>

理由

一当裁判所は、被控訴人の本件申請は原判決認容の限度において理由があり、これを認容すべきものと判断するが、その理由は、原審における当事者の主張については、次のとおり訂正付加するほかは、原判決の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決三六枚目裏五行目の「仙営」の次に「(その後東北営業所と改称)」を加える。

2  同三七枚目表一〇行目の「第三八号証の一」を削り、同一〇行目の「第四五号証、」の次に「当審証人澤亮の証言により真正に成立したと一応認められる疎乙第三八号証の一・二」を加える。

3  同三七枚目裏三行目の「同斉藤達二(第一回)」の次に「当審証人澤亮」を加える。

4  同三七枚目裏四行目の「申請人本人尋問の結果(第一回)」の次に「及びこれにより真正に成立したと一応認められる疎甲第三号証」を加える。

5  同三八枚目裏九行目の「一〇一作戦」の次に「(昭和四八年四月に控訴人の決算期が第一〇一期となるのに因み、全社的に前年以前から始められたキャンペーン)」を加える。

6  同四一枚目表三行目の「又」の次に、「当審証人羽成正臣の証言によつて認められる転任転勤については当時控訴人において実施していた自己申告制度によつて従業員各自の意向」を加える。

7  同四一枚目表九行目の「資格のないとこ」を「資格のないこと」に訂正する。

8  同四六枚目表三行目の「できず」から同五行目の「うてい解」までを削る。

9  同四六枚目表八行目の「前掲疎甲第一号証、」の次に「第三号証」を加える。

10  同五四枚目表一〇行目「、また」から同裏一行目の「被ること、」までを「ることとこれまで従事してきた技術職を離れてその希望に反する営業職に就くことになりそのため」と訂正する。

11  同五四枚目裏五行目の「、また」から同五五枚目表一行目の「制約されること、」までを「により相当の精神的、経済的不利益を被ること、」と訂正する。

12  同五五枚目表二行目の次に、次を入れる。

「そして、被控訴人の被る右のような不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものというべきであるから、転任命令が正当なものである場合は問題とすべき事柄ではない。しかし、被控訴人にとつて不利益であることには変りなく、したがつて、右命令が労組法七条一号所定の動機によつてなされた場合には、右法条にいう「不利益」にあたると解すべきことは当然である。」

13  同五五枚目表末行の「だけ……制約される」を削る。

二次に、当審における当事者の主張について判断する。

1  本件転任の業務上の必要性について

(一)  仙営の拡販要員増員の必要性については、原判決認定の事実(原判決三七枚目裏六行目から同三九枚目裏六行目まで)のほか、<証拠>によつて認定し得る仙営での昭和四六年から昭和四八年にかけての電子課の受注量は昭和四六年度が約三億三〇〇〇万円、昭和四七年度が約五億五〇〇〇万円、昭和四八年度が約六億八〇〇〇万円と増加し、かつ、技術的に専門的要請に対応し得る販売担当者の要員の増員が必要とされていたことを合わせ考えると、仙営での右要員の増員要請は合理的であり、その必要性があつたといわなければならない。

(二)(1)  一般に、使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、その場合当該転勤先への異動が余人をもつては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである(最高裁判所昭和五九年(オ)第一三一八号事件昭和六一年七月一四日第二小法廷判決参照)。

控訴人とその労働組合との間で締結されている労働協約第一〇条は、転任・転勤・出向につき、「① 業務の都合によつては会社は組合員に対し就業規則により他の場所へ転任を命じ、また同一の場所内で他の業務に転勤を命じあるいは会社外の職務に従事させるため出向を命じることがある。

② 会社は組合員を転任・転勤もしくは出向せしめたときはその者の所属支部に通知する。」と規定し、同①一一条は、転任・転勤・出向の異議申立てにつき、「組合員の転任・転勤・出向が本人の生活または組合活動に著しく支障を与えると認めるときは、その者の所属支部はその理由を付して異議を申し立てることができる。

② 前項の異議申立ては本人が転任・転勤・出向の命令を受けてから5日以内に行うものとし、会社とその者の所属支部双方直ちに協議する。

③ その者の所属支部の異議を正当と認めた場合は、会社はその者の転任・転勤・出向を前項の命令を受けたときから10日以内に取り消す。

ただし、組合活動に著しく支障を与えるという理由に基づく転任または出向の異議を正当と認めた場合は20日以内に取り消す。」と規定し、また、控訴人の就業規則第五五条は、転任・転勤に関し、「① 業務の都合によつては他の場所へ転任を命じ、または同一の場所内で他の業務に転勤を命じることがある。

② 転任、または転勤を命じられた者は、できるだけすみやかに新しい職務に従事しなければならない。」と規定している。また、労働協約第一〇条の了解事項として「会社は組合員を転任または出向させるときは原則としてあらかじめ本人の意向を聴取し参考とする。」という条項が存在する。以上の点については当事者間に争いがないところ、転任の本人に及ぼす影響に鑑みれば、できる限り内示前に本人の意向を聴取するという運用がなされることが望ましいが、文理解釈としては、転任命令の発令前である内示の段階で本人の意向を聴取することをもつて足りると解すべきであつて、これをもつて右了解事項違反とまでいうことはできない。

そして、<証拠>によると、被控訴人は、昭和三九年三月福島県立郡山工業高等学校を卒業し、同年四月控訴人に入社すると同時に鎌電総務課に配属されたが、右労働契約時被控訴人の勤務地を鎌電に限定し、かつ、職種を技術職員と限定する旨の合意はなされておらず、したがつて、控訴人の業務上の必要上将来転居を伴う転勤及び職種の変更のあり得ることは当然予定されていたものであり、現に控訴人では全国の各製作所から各営業所への転勤は昭和四八年から昭和五四年までの間ではあるが、その間八〇〇人(事務系二二七名、技術系五七三名、その内鎌電からの転出は事務系五名、技術系四九名)であること、以上の事実が一応認められる。

以上によれば、控訴人は被控訴人に対し、原則として、被控訴人の勤務場所と職種を決定して転任を命ずることができるものというべきである。

(2)  <証拠>によれば、鎌電の組織として設計製造担当部門である飛しよう体製造部・電波製造部・マイクロ波製造部・数値制御製造部があるところ、民生用機器の販売要員を選任するとした場合、右電波製造部が自然であるといえることが一応認められるけれども、他面鎌電としてRSM始め民生用電子機器を拡販したい機種であつたと述べる当審証人羽成正臣の証言は、本件転任内示時控訴人がかく考えていたとの証拠がないことに照らし、仙営要員の必要性は専ら仙営側の業務上の必要性にあり、右証言にいう鎌電側の拡販要請をもこれに付加されていたものと認めることができないことを考えると、電波製造部からの人選が自然であるからといつて、直ちにもつて、これが本件人選の合理性を積極的に基礎付ける理由の一つとはならないといわなければならない。

又、当審証人羽成正臣の証言によると、本件人選は鎌電の吉田所長と黒川副所長のみにより決定され、事前に人事課長その他人事課が関与していないことが一応認められるところ、控訴人の如き大企業において工技二級程度の従業員にすぎない被控訴人の異動につきこのような決定の仕方はそれ自体通常見られないことといわなければならない。

控訴人は、又、仙営へ転出させる資格に関し工技二・三級の者より事務・技術一級の方が上位資格者であるためより困難であると主張するが、もともと仙営の人員割愛要請は工技二・三級又は事務・技術一級とあつたものであつて、問題は当初から事務・技術一級の者を人選の対象として一顧だにすることのなかつた点にあり、そのため、対象を被控訴人一名に絞る結果となつたものというべきである。

又、昭和四四年八月二七日付控訴人と支部組合間の覚書中の「会社は転勤転任等に際しては本人の適性等の把握にこのうえとも慎重なる配慮をすることを約束する。」との趣旨は、転任について本人の同意を要するものと解する根拠にはならないが、控訴人側における慎重な人選手続を定めたものであり、前判示のような本件人選の経過は右覚書に反するとまではいえないが、その精神を十分に尊重したものとは言い難いというべきである。

そして、右判示の事情と本件人選の合理性ないし妥当性についての前示引用の諸事情(原判決三九枚目裏七行目以下)を総合すると、本件人選の手続は十分な妥当性を有するものとは認め難くかなりの程度において特異であつたというの外はない。

(3)  しかしながら、本件において、仙営の割愛要請の趣旨、被控訴人の所属部署の取扱種目と業務内容、担当従業員の員数と資格、被控訴人の職種と資格、その職場に置かれた状況等に照らせば、被控訴人を仙営要員の人選対象範囲から除外すべき理由はなく、右判示の程度の人選における妥当性の欠如はそれだけで本件転任命令を無効ならしめるものと解すべきではない。

なお、被控訴人主張の転任による個人生活における不利益は、通常甘受すべき程度を越えるものではなく、また、組合活動に及ぼす影響は被控訴人個人の被る不利益ということはできない。

右に判示したように、本件人選の手続における妥当性の欠如ないし特異性は本件転任命令を無効ならしめるものではないが、このことは右欠如をもつて控訴人が不当労働行為の意思を有していたことを推認せしめる一つの事情と解することを妨げるものではない。そこで、次にこの点を含めて右意思の有無について検討する。

2  本件転任の不当労働行為性について

(一)  鎌電ニュースの発行について

<証拠>によれば、鎌電ニュースは、当初勤労ニュースなる名称のものが昭和四六年二月羽成正臣が勤労課長に就任後同年四月から、その頃主任、班長を対象として発行された労政情報と相前後して、名称も鎌電ニュースと改められて発行され、それに掲載される記事は労使間の人事・福祉・諸行事のほか労組関係等多岐にわたり、また、その編集発行は労働組合との関係でいわば窓口である人事課企画グループが担当していることが一応認められ、これらに照らすと、組合対策を主たる目的として発行されたものと推認することができる。

(二)  時間外協定問題について

控訴人は昭和四六年一二月一日特機支援課の業務移管に関しての説明会に非組合専従者である支部委員二名の退席を求めたことをもつて労働協約第六条の三に基づく当然の措置であると主張し、確かに右条項はその旨を定めているが、<証拠>によれば、例えば、昭和四六年四月二九日の福利厚生に関する協議会、同月三〇日の時間外協定に関する協議会にはいずれも非専従役員である河合及び管の両名が出席しているように、控訴人としては従来これらの出席を必要に応じて認めてこれを拒んだ形跡はなく、同年一二月に至り格別の説明もなされず二名の者の退席を求めたことが一応認められるから、この点に照らして控訴人は従前の取扱を特段の合理的理由もないのに組合に不利に改めたものと云わざるを得ない。

また、時間外協定に関する控訴人側の六ケ月単位、製作所単位とする旨の提案自体については、<証拠>によれば、その運用の実態に照らしてそれなりの合理性がないわけではないが、この問題に関連して発行された鎌電ニュース六八号(昭和四七年三月二二日発行)の「鎌倉支部執行部は会社と社員の離反を意図している」との見出しは組合内部に混乱をもたらすことを意図したものとの疑を禁じ得ない。

(三)  構内放送設備及び研修センターの利用について

<証拠>によれば、控訴人においては組合に構内放送設備及び研修センターの利用を例年にわたり許可していたところ、昭和四六年一〇月に至り何ら理由を示すことなくその利用を拒否したことが一応認められる。社内の諸施設の利用の許否はその施設管理権者たる控訴人の裁量の範囲内にあることは明らかであるが、この時機において従来の運用の実情に反する取扱をした点に合理性が乏しく、この点に関する控訴人の主張は単に労働協約第八条を建前とした一般論をもつてするものであつて首肯しがたい。

(四)  鎌電時報、主任会報等について

<証拠>によると、鎌電時報昭和四七年九月号には「緑化運動、草花の種、新しい公害云々」、「ミンコロ姐ちやん云々」の記事が、また、時報かまくら昭和四八年一月号には「ドジョウ云々」の記事が掲載され、これらは当時の労使関係の状況に照らし、「新しい公害」とは被控訴人側の旧執行部を、「ミンコロ姐ちやん」とは女性の民青同盟員を、「ドジョウ」とは被控訴人側の組合員をそれぞれ指すこと明らかである。しかして、右鎌電時報にはおよそ社内報に適すると思料される多岐にわたる多数の記事が掲載され、前記の記事はスペースとしてはむしろ僅かな部分にすぎないが、<証拠>によれば、鎌電ニュースは人事課(課長羽成正臣)により発行され、同課企画グループにより起案し編集され、記事掲載の取捨選択は同課長の事前の点検と了解の上でなされていたことが一応認められ、これらに照らすと、前記の記事は控訴人の被控訴人ら組合執行部や民青に対する嫌悪の意思を暗に示したものと見るのが自然である。

なお、主任会報については、<証拠>によると、昭和四七年一二月主任会が結成された上、主任会報編集委員会により主任会報が発行されたことが一応認められるが、控訴人が主任会及び主任会報にどの程度関与していたかは明らかではない。

(五)  黒川副所長のキサマ発言について

<証拠>によると、昭和四七年一〇月二七日支部組合事務所の移転に関する労使交渉の席上、黒川副所長が小山執行委員長に対して「キサマ」呼ばわりしたこと、しかしながら、これは小山が黒川から「小山君」と君付けでいわれたことに対し「撤回しろ。さん付けで呼び直せ。自分は所長と対等だ。あなたは副所長だから私より地位が低い。」などといつていい返えしたこと、これに対し、二十数歳そこそこの者からの口答えに思わずかく発言をしたにすぎないもので、小山に対するその場の個人的感情による応待の域を出でないことが一応認められるから、これをもつて組合敵視と断ずることはできない。

(六)  民主化連合について

<証拠>によると、民主化連合なる組織は、鎌電における恒常的な組織ではなく、支部組合役員選挙や大会代議員選挙施行の際既存の組織により一時的に作られる組織であるところ、昭和四七年七月一八日発行の民主化連合のビラは、「赤い労組が支配する企業の結末。日共・民青はこうして鎌電に潜入した。」との見出しで記事を掲載するなどして支部執行部を攻撃し、同月二七日木曜日午後六時から藤沢市所在の藤沢市民会館大ホールで民主化連合総決起集会(石原執行部勝利のための集会)を開催し、これには約一三〇〇名の組合員が参加したこと、当時鎌電は水曜日だけが一斉定時退場日(残業をしない日)であり、木曜日には残業が多い状況にあつたことが一応認められ、これによれば、右集会は控訴人の了解があるなど何らかの協力的関係があつたとの疑いが濃厚であるといわざるを得ない。

(七)  支部組合役員選挙に対する介入について

<証拠>によると、小山執行部の落選の理由については、当該執行部の年令、学歴、社内資格のほか、いずれかといえば偏つた組合運営自体にも一半の原因があるが、他面民主化連合による「暁光」の①昭和四七年七月一三日号の「日本共産党の手から労組を私達の手に取りかえそう。」、②同年七月一八日号の「日共・民青はこうして鎌電に潜入した。」、③同月二〇日号の「善良な組合員を踏台におどる鎌執、あやつる日共。」、④同年八月三日号の「日共・民青の労組介入」などの記事の掲載が一応認められ、これらの事実と前判示の諸事情、殊に控訴人と民主化連合との協力的関係を総合すると、控訴人による種々の形での選挙介入がなされたことを推認できない訳ではないといわなければならない。

(八)  松山課長の発言について

控訴人は松山課長の被控訴人に対する転任理由の説明に関する「上級管理職にかなり強い別な目でみられている。鎌電にいても陽が当りにくい。」との発言を記載したメモ(疎甲第一号証)について、その内容の真意は被控訴人の将来のためを思つてなされたものであると主張する。確かに、中間管理職である松山課長が被控訴人のもつとも身近な上司として被控訴人の置かれている職場での立場や将来性を考えて配慮することは、松山の職務の一つであり、また、その地位からして自然であるともいい得るところであつて、右の発言内容それ自体をもつて直ちに転任の人選の公正さを疑わさせるものとはいいがたく、原審における証人松山宏の証言中「黒川副所長が被控訴人のことを未だ組合時代の気分が抜けていないようだといつて、私に対し課員としての協力をするようにしなければいけないとの指示があつたので、副所長もそのようなことを気にしているのだなと思つたことが主な趣意である。」との供述部分も、右の趣旨に出たものと首肯し得る。しかしながら、右発言は控訴人内部の上級管理職が被控訴人に対して良い感情を持つていなかつたことを示す一つの証拠であるといわなければならない。

3 右2において認定した諸事実と控訴人が被控訴人を転任要員として人選した経過とその前後の状況(原判決三九枚目裏七行目から同四六枚目表五行目まで及び右1において認定した事情)、被控訴人の組合活動の時期とその内容、控訴人の組合に対する対応、本件転任命令に至るまでの経緯(同四七枚目表一一行目から同五四枚目表一行目まで)を綜合検討すると、本件転任命令は控訴人が被控訴人のした従来の労働組合活動を嫌悪していたこと及び被控訴人を支部における組合活動からできるかぎり切り離すことを動機目的としてなされたものと一応推認することができる。そして、本件転任内示当時被控訴人が組合の役員でもなくその一組合員にすぎなかつたとの点は右判断を左右するものではない。

そして、本件転任命令は、右1に判示したように、業務上の必要性を欠くものということはできないから、結局不当労働行為意思と業務上の必要との二つの原因に基づいてなされたものということになるが、以上に判示した事実関係の下では、前者が後者に比べて主要な原因であるというべきである。そこで、本件転任命令は被控訴人が労働組合の正当な行為をしたことを原因としてなされた点において不利益取扱として労組法七条一号に該当し、かつ、被控訴人を支部における組合活動から切り離して支部執行部に復帰する機会を断つことを原因としてなされたという点において、支配介入として同法同条三号に該当し、無効であるというべきである。したがつて、被控訴人がこれを拒否したことは懲戒事由に該当しないから本件解雇もまた無効であり、これと同旨の原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がない。

三以上の理由により、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却する。

訴訟費用の負担につき、同法九五条八九条適用。

(裁判長裁判官武藤春光 裁判官菅本宣太郎 裁判官秋山賢三)

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